2016年2月8日月曜日

火宅の人 檀一雄

それぞれの家庭には、可視化されていようが不可視化であろうが、様々な問題があると思う。すべての家庭が、サザエさんやちびまる子ちゃんの様にほのぼのと明るく、すべてのメンバーが個性的であってもおしなべて平和である、などというのは幻想である。
寺山修司を意識して書いてみました。寺山修司についてはまた今度。

高校生の時、ひょんなことから檀一雄の火宅の人を読んだ。教科書に乗っていたからなのか、なんなのか、忘れたが檀一雄という小説家に出会ったわけだ。

潜在的にそれぞれの家庭に闇や問題を抱えている、家族というのは闇を抱えやすい集合体であるというのは私の持論だし、そんな話は腐るほど語られていると思うので特に記す必要はないと思う。
ただ、私はその持論に達するまで長い年月を要した。
思春期の私は不安に思った。なんだか私の家族には、水面下に闇がある気がする。それは異常なことなのではないか。友達の家はどこもそんなことはないのではないか、など。日本のアニメの洗脳は怖い。ほのぼのと、平和な家庭を強要されているようだ。
長い年月をかけ、私は上記の結論に達した。家族は闇を抱えやすい集団であると。そしてそれは特殊なことではないと。

そこで、このブログを初めて、久しぶりに思い出した、それが檀一雄の火宅の人。ここ以上にハチャメチャな家庭もなかろう。ただ、この本を貫く明るさ、それがいわゆる「複雑な家庭」というものを昇華させているのではないか。そして、私が思春期にこの本にハマって(ついでに母もハマった)いたのは、その頃(多分)我が家の根底に流れていた闇を感じ取り、何もわからないけれども多感な思春期特有の自己防衛だったのではないか。ここまでハチャメチャな家庭でも、こんなふうに(ある意味ネタという私小説に)本にしたためる事ができるのであれば、それは救いなのではないか、と。

嗚呼、暗い。

ここまでは、再読せずに書いた文章です。
火宅の人は、私にとって偏愛本なので、数年に1回、必ず発狂しそうなほど読み返したくなるのだけれども、引っ越しも多いし、実家には文庫版があるし、と買わずにいたけれども、ついに買ってしまった。
読書エッセイブログのため、というより、持病が再発、くらいの気分だったけど。
Amazonプライムやばい。

そんなわけで、届いたあと、貪るように、ページを繰る指がもどかしく読み進めていたのだけど、上巻を読み終わったあと辺りから、とても苦しくなってきた。
苦しい。ツライ。
なんだろう、こんなふうに苦しくなるのは。どうしてだろう。この物語は、私にとっては救いの本だったのではないか。家庭はハチャメチャで崩壊していても、最終的には救われる的な何かであったはずだ。

なのに、苦しい。何も救いになってない。
おかしい。

話は少し遠回りになるが、ここ最近の私のテーマは”自分”の「孤独」「生と死に対する価値観」「愛するということ」である。厨二病だと思ったあなた、間違いじゃないです。
そもそも、研究とかいう対象物をまじまじと観察・分析・議論する仕事についているので、自分の気持ちも研究対象にしたわけである。安上がり。
それぞれの着想に至った経緯(科研費みたいですが)は、また次の機会に述べるとして、最近自身の「孤独」についての解析については難航している。

そんなときふと思った、「火宅の人」は、「孤独の物語」なのだと。檀一雄の孤独の叫び、どんなことをしてもどうしても埋まらない孤独の系譜なのだと。
孤独は埋まらないからこそ、孤独である。とは思うのだけど、孤独を埋めようとあがく姿を小説で表面上は豪快に、無頼派のような振る舞いとして描かれているのは、ちょうと自分の孤独と向き合う最中である私にとってはツライことだった。

やっとわかった!これは孤独の叫びの本だ!

と思ってからは、一刻も早く読み終わらなければ!と思った。終わらせなければ。終わらせなければならない。なぜならこれは本だから。読めば終わるから。

それにしても、高校生の時とはぜんぜん違う印象である。今回再読した時に思ったのは、石神井の本宅の妻は、一貫して最初から最後まで、檀一雄(作中の桂一雄)にもっとも愛された女性なのではないのか、ということである。他の女性と生活を共にしようと、世界を放浪しようと、最終的には石神井の本宅があり、そこに妻がいることが、彼の女性によって埋められる孤独に対する最大の癒やしだったのではないのか、ということ。
だからこそ、高校生の私にとって「どんな家族という集団でも闇を抱えやすいが、この小説には家庭に光があり救われる」という意味での救いの本であったということ。
また、偏愛熱が再発したら読み返そうと思う。

火宅の人(上)(下)
檀一雄

新潮文庫 
新潮社 昭和56年 発行
(上)ISBN978-4-10-106403-1 C0193
(下)ISBN978-4-10-106404-8 C0193